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元本支払いから得られる収入をもとにクーポンを支払うのが、元本オンリー証券(PO)、金利収入だけをもとにクーポンを支払うのが、金利オンリー証券(IO)と呼ばれるデリバティブである。
 毎月定額返済の場合、はじめのうちは金利分の支払いばかりで、元本がなかなか減らないことは、ローンをした経験のある人なら誰でも知っているだろう。
元本オンリーの証券POは、けじめのうちは返済額に含まれる元本分か少ないので、受取りクーポンは低額で、満期が近づくにつれて大きくなる。
一方、金利オンリー証券IOは、はじめのうちは大きな収入があるが、あとになるほど小さくなる。
クーポンは早いうちにもらった方が、割引率が小さいから大きな価値をもっている。
したがって、はじめのうちに大きなお金を受け取るIOの発行価格は高く、後の方で大きなお金を受け取るPOの発行価格は低く設定される。
 ここまで来れば、元本一〇%、金利九〇%といった証券があってもおかしくない、ということに気づかれるであろう。
このような証券は、住宅ローンの金利が三%なら、額面一〇〇円に対してはじめのうちは年間三〇円のクーポンをもらえることになる。
したがって、この証券の市場価格は、額面の約一〇倍に達するであろう。
 しばらく前に、S氏という米国の投資銀行の元社員、P氏が書いた、『大破局(フィアスコ)』という本の翻訳が出たが、その中で、S氏が日本のX銀行を相手に、一〇〇億円相当の損失隠しのために開発した商品が詳しく紹介されている。
これは、三〇年ものの住宅ローンをもとに組立てられた、金利九九%、元本一%という証券IOと元本オンリーのPOを組合せた商品であった。
 元本一億円のPOの市場価値は、その約二〇分の一の五〇〇万円程度にすぎない(なぜなら、POの場合はじめのうちは、ほとんどお金が入ってこないからである)。
一方のIOは、元本一億円に対してその一〇〇倍、即ち一〇〇億円の市場価値がある。
 モルガソースクソレーは、元本一億円のPOと、元本一億円のIOを抱き合わせにした商品を作成し、これを二単位分X銀行に売る。
この商品の価格は、である。
 さて数日後、X銀行はS氏に、一単位分を売却する。
この商品の帳簿価格は、一〇〇億五〇〇万円である。
ところが、この取引でX銀行は、IO二単位分を売ってしまうのである。
この結果X銀行は、IOの市場価格二〇〇億円を手にする。
この商品の原価は一〇〇億五〇〇万円だから、この取引によって発生する利益は、九九億九五〇〇万円である。
したがってこの時点で一〇〇億円の損失は消える。
 X銀行の手元には、帳簿価格一〇〇億五〇〇万円の一単位が残っている。
しかし、実際に残っているのは、PO二単位分、その時価は僅か1000万円である。
ところが、実際にこの事実が発覚するのは三〇年後なので、もはや責任者は皆X銀行を退職している、という次第である。
簿価主義会計の盲点をついたこの取引で、X銀行は損失隠しに成功する一方、S氏は一〇億円以上の手数料をせしめたのである。
 ここに書かれた取引は、恐らく氷山の一角であろう。
二〇〇一年には、わが国の会計制度が簿価会計から時価会計に切り替わるが、この隠れ損失が、もう一つの二〇〇〇年問題とならないことを祈りたいものである。
 住宅ローンが証券化できるのであれば、それ以外の資産も証券化できることは明らかである。
実際わが国でも、自動車ローンはかなり前から証券化されているし、いよいよ二〇〇〇年からは、住宅ローンの証券化も実現する見通しである。
近々、銀行も企業への貸出しを証券化して、リスク資産の圧縮を図るという。
 証券化は、金融資産だけでなく、不動産などの実物資産も対象とすることが出来る。
いわゆる「資産担保証券」である。
これは、ある資産を所有している者が、そこから得られる収入をもとに証券を発行して、早期に投資資金を回収し、リスクを軽減する方法である。
 例えば、賃貸ビルを建設し、賃貸料収入で資金を回収する不動産業者が、将来得られる賃貸料収入をもとに債券を発行して、資金を早めに回収し、将来の不確定性に伴うリスクを一般投資家に負担してもらおう、というシステムである。
 証券化に当たって問題となるのは、証券を発行する企業が、債務不履行状態に陥り、クーポンや元本を支払えなくなることに伴う、「信用リスク」である。
 住宅ローン担保証券の場合は、米国では原則的に国が債務保証を行い、リスクを肩替わりすることになっている。
しかし、一般企業が発行する資産担保証券の場合は、国の保証が得られるわけではない。
そこで、何らかの債務保証システムが必要となる。
例えば、企業が保険料を支払って、万一の場合そこから元本を返済する、というやり方である。
 ではこの掛け金をいくらに設定すれば良いだろうか。
ここで再び、企業の信用リスクが問題になるのである。
 格付け 古くから、企業の信用力を測るために用いられているのが、「格付け」情報である。
米国では、ムーディーズやスタンダードーアンドープアーズ、日本では、日本格付投資情報センターなどが、企業に対して最高のAAAから最低のCまで、一二段階から二一段階の格付けを行い、それを一般に公表している。
 格付けを行うために使われるデータは、企業の財務データや、経営者の資質、戦略目標、商品販売戦略、資本調達方法、企業系列、将来計画など、極めて多岐にわたっている。
 格付け機関が、これらのデータをどのように組合せて格付けを行っているかは、一般には公表されていないので、実際のところは良く分からない。
しかし格付け担当者自身が、“格付けはアート(主観)であり、サイエンス(客観)である”といっているところをみると、かなりアート(主観)に頼る部分が多いのであろう。
金融工学の立場から言えば、格付けはせめて九〇%サイエンス、一〇%アートであってほしいものである。
 それにもかかわらず、格付けが権威をもっているのは、一九三〇年代の大恐慌の際に、格付けが高い企業の倒産率が低かったためだという。
大きな企業の場合、格付けが一つ、例えばAAからAに変わると、借入れ金利や株価を通じて、一〇〇億円単位の影響が出ると言われているくらい、大きな影響力を持っている。
 企業の格付けに限らず、「評価」というものはもともと大変難しいものである。
どうしてもそこには評価者の主観が入り込むし、また主観的にしか評価できないものもあるからだ。
 筆者は、教官の採用率入学試験などの場面で、しばしば「人間の格付け」を行わされる立場にある。
このような場合、極めて優秀な人と全くダメな人については、評者の意見は一致するものである。
難しいのは中間部分である。
 一〇人から一人を選ぶのは簡単だが、一〇人から五人を選ぶときは、最後の一人、二人で揉めることが多い。
恐らく、格付けの場合も同じであろう。
AAAやCは誰もが一致するが、中間部分はかなりアイマイなのではなかろうか。
しかしこのアイマイさが、一〇〇億円の差を出すとしたら、その影響は重大である。
特に、頼みもしないのに、勝手に格付けされた側の不満が大きくなるのは当然である。
アートなら、せいぜい七段階評価が限界だ、というのが筆者の考えである。

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