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生産の現場では強い組織を構築するのに、ブランドカや販売力などを欠くため収益を上げられない可能性があるからだ。

私もこの点については、卓越した技能や技術が生産の現場にあっても、それを組み合わせて商品に仕立て上げ、さらには広告を通じてブランドイメージを確立させたり消費者に認知を図るなどしている。 変貌を遂げつつある消費者の欲求にまでつなげる「プロデューサー」的な機能が付加されなければならないと考える。
企業の構造改革は、生産面に偏しているのだ。 消費者の欲求をとらえ、それを技術・技能につなぐ改革も求められているのである。
この点について「T」を著した外国人研究者であるJ・K・Lは、F主義のような大量生産方式が唱える「効率性」とT生産方式にいう「ムダ取り」とを比較して、両者はまったく別物だと述べている。 F主義では在庫にかかる場所代や欠陥品発生率を無視しているため、消費者が購入した時点で発生する「価値」から逆算すれば、多くの過程がムダになるというのである。
品揃えをメーカー側の都合ではなく顧客の要望を起点にして考えるというのは、「買い手主導」と呼ばれる発想だが、T式も販売時点で価値が生まれると考えているのである。 これは最近目立って増えたコンビニ発のプライベート・ブランド生産を先取りするものだ。
それを取り違えるのが外国企業が導入に失敗する理由だというのだが、Lはさらに、個々の技術シール、たとえば「ムダ取り」を躍起になって導入しても、それはT式経営の半面にすぎず、使いこなすにはその裏面を習得せねばならないと指摘する。 「長期的な経営判断」「人間尊重とチームワーク」「継続的な改善と学習」など、Tは合わせて14原則にまとめられるわけ「改善」の徹底が困難とLは見る。
市場競争を経たからといって、異文化に属する他社が容易には模倣できるものではない、という見方である。 だが我々は、反省しない日本企業も無数に存在することを知っている。
T式はT家の特異な伝統なのか、日本文化の遺産なのか。 T式が国内でどこまで広まるかは、「反省」を我がものとできるか否かにかかっているのである。
M自動車の挫折一方、製品市場で競争が激しければ、そこでもまれた企業は合理的で正しい行動をとる、という説に対する反証例となるのが、M自動車である。 横浜市で2002年、母子が死傷したM自動車製の大型車のタイヤ脱落事故にかんし、横浜地検は04年5月、虚偽報告の罪でMふそう前会長・U容疑者らを起訴した。

それに続いて、クラッチ系統の欠陥から山口県で02年に起きたM自動車製大型車の死亡事故(冷蔵車の暴走で運転者が死亡)についても、欠陥を隠し事故を招いたとして、同年6月神奈川、山口両県警の共同捜査本部が業務上過失致死容疑でM自動車の元社長・K容疑者ら6人を逮捕した。 さらに組織ぐるみのリコール(無償改修・修理)隠し、欠陥隠し、ヤミ改修の実態と手口が次々に明らかになった。
当然のように消費者離れが進み、M自動車の05年5月の国内販売成績は前年同月比で38.8%減と深刻なまでに落ち込んだ。 追い打ちをかけるように、同社製のワンボックスカーやワゴン車が各地で連日エンジンから出火している。
まさに「火の車」状態である。 90年代前半に、消費者の好みがセダンからM自動車が得意とするRV(リクリエーショナル・ビークル)に移った頃には、この流れでは「P」で独り勝ち、ライバルであるHを抜いて、第2位のNにも追いつくかに見えた時期もあった。
90年代後半の営業不振から、同じく外国メーカーの出資を受けたNが、C社長の指揮のもとでV字回復を記録したのにして、M自動車は対照的であるし、10年間で倒産寸前というのは、あまりにも急な落ち込み方である。 M自動車が国内で起こした不祥事には、これまでにも二つの山があった。
1997年の総会屋への利益供与事件と2000年のリコール隠し騒動である。 前者は、今となっては同社ならやりかねない事件だったと受け取られても仕方はない。
逮捕された河添元社長自身が、当時社長に就任し、社内の企業倫理委員長をも兼ね、組織の体質改善に努めたとされていた人物だからだ。 この2つの事件、そしてあらためて暴露されたM自動車の事件は、隠蔽体質を浄化するといったコーポレート・ガバナンス(企業統治)が、市場競争だけではもたらされないことを示している。
しかも総会屋事件を経てさえ反省の色は見せなかったのだから、事態は深刻である。 市場競争は、ある社風では企業組織を規律づけるが、別の社風では企業統治を歪めるだけにとどまる。

社風によっては、隠蔽することこそが理にかなっていると理解してしまうらしいのだ。 総会屋事件も、発覚の発端は派閥争いからの内部告発であったし、2000年のM自動車のリコール隠しが発覚したのも内部告発、そして05年に隠蔽体質が暴露されたのは、刑事事件の捜査からであった。
組織の浄化は、市場競争に任せきりにはできないのだ。 ノンフィクション作家の佐藤正明によれば、M自動車は、一方では市場動向とのかかわりを重視しながら、他方では組織に自閉するという分裂した体質を持っているようだ。
90年代の後半になると、世界の自動車産業では大再編が勃発した。 そこでM自動車は、大西洋を挟んだ合併で生まれたDとの資本提携にいたった。
これだけを見ると、M自動車は、業界の動向に鋭敏である。 ところがその一方で、「リコール隠し」への伏線も着実に張られていたのである。
報じられたところでは、すでに1977年にはクレーム(不具合)情報を運輸省に報告するものとしないものとに分けて二重管理し、不具合は修理に際して無断で部品を交換するという「ヤミ改修」が組織的に行われてきた。 96年にはクラッチについて社内で欠陥が認識され、部下からリコールの公表を進言された川添元社長は、97年頃から一貫して拒否している。
そして2000年にリコール隠しが発覚し、運輸省から過去の不具合情報の精査を求められたが、精査せよとの指示を出さないことを社長みずからが選択した。 Dとの提携を前に、マイナスと判断したためらしい。
ここですさまじいのは、2000年からはヤミ改修すら放棄したことだ。 つまり事故の起きる可能性が認識されていたのに、ゴマカシすら止めてしまったのである。
事故が続発すればいずれ欠陥隠しが露呈することは明らかであるから、組織として脳死状態に陥ったとしか言いようがない。 この後は、事故が起きるたびに「消費者側の整備不良」との主張がなされた。
それで言い逃れができると高をくくっていたのである。 社員の本音は、「国民の10人に1人はMグループにつながっている。
Mの名のついた企業がつぶれるはずがない」といったところなのだろう。 05年4月からは、改修済みの車両で事故や不具合が続発している。
使用禁止を指示している工具で部品を締め付けた結果、部品が壊れたという、常識では理解しがたい販売店の作業ミスが原因である。 M自動車では、組織については、権力・権限がトップに集中する縦割り組織であり、部門間の人事異動が乏しいため、相互チェックが働かないといったことが問題として挙げられる。

その結果、「企業優位、顧客無視」の内向き体質が定着した。

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